建設業で独立開業してから早いものでもう8年になります。そこまで規模が大きいわけでもなく、かと言って何か特色があるわけでもない、いわゆる普通の建設業の親父をやっている自分ですが、ひとつだけ他の人に絶対に負けないものがあります。
「義理人情」です。
たとえ自分が損な役回りになることがあっても、義理人情を優先するという軸だけブレさせることなく今日までやってきたつもりです。そのため、もっと上手く立ち回っていれば会社の規模も従業員の数も多かったのだと思いますが、今では私を含めて9人で会社を回しています。
この8人の従業員の中には、自分の小学校からの幼なじみもいたり、同じ会社で修行した仲間もいたりして、自分的には本当にかけがえのない仲間達です。
決して豪勢な飲み会ができたり、毎日クラブで従業員を連れて豪遊するような感じではありませんでしたが、従業員を食べさせて行くには十分な売り上げがあり、会社経営的には最低限は安定している状態でした。もちろん、突発的な出費が重なったりするとピンチになったりすることが多いので、まだまだ安定しているとは言えないのですが・・・とりあえず、です。
そして、こんな自分をガキの頃から拾って育ててくれた社長さんがいます。ここでは仮にAさんとします。
Aさんは自分に義理人情の素晴らしさや、人の心が介在する血の通ったビジネスをしろという大事なことを教えてくれた師匠でもあり、もちろん建設業としてやっていくためのテクニックや技術も叩き込んでくれた、自分にとっては親のような人でした。
この人がいなかったら、きっと自分は今社長なんてやっていなかったと思います。
独立してからはAさんとも年に数回やりとりをしたり、一緒に飯を食いに行ったりするくらいだったのですが、どうやら、ここ数年はAさんの会社の業績もあまり良くなかったようでした。
また病気がちだったようで、あまり「羽振りが良い」と言えるような状況ではなかったのも薄々感じていました。
飯に誘っても返信がなかったり「忙しいからお前と飯を食いに行ってる暇などない!」と電話を切られたりすることがあり、もしかしたらAさんは何かトラブルに巻き込まれているのではないか?と感じたりもしました。
そんなある日、自分の携帯がなりました。全然知らない市外局番からの電話だったので最初は無視していたのですが、何度も着信があり、しかもよくよく見てみるとAさんの地元の市外局番だったので嫌な予感がして電話を取りました。
電話に出てみると、相手はAさんの娘さん。自分がAさんの元で修行していた頃はまだまだ小さな子供だと思っていたのですが、8年も経てば成長しますよね。ハタチくらいになっていました。
話を聞けば、Aさんがお亡くなりになったとのこと。
しかも、亡くなられた後でAさんに個人的に金を貸していたというちょっと怪しげな人が従業員みたいな人を連れて借金取りに来た、という話を聞きました。
そして生前、Aさんは「自分がいなくなった後、本当にどうしようもなく困った時は、M(私)に電話するように」とおっしゃっていたんだそうです。
借金の総額を聞くとおよそ200万円ちょっとということでした。
すぐにポンとポケットマネーで出せれば良かったのですがそのような状況でもなく、かといってこのまま電話を切ってしまってはあまりにもかわいそうです。
自分の義理人情と、Aさんに対する恩義をきちんと返すため、私は娘さんに「借金は絶対に俺が何とかするから、安心していいよ。とりあえずその場にいると危ないと思うから、うちの会社の事務所においで」と、東京の事務所まで来るように促しました。
今回は迅速でした。まず私は業務終了後に従業員全員を一度事務所に呼び戻し、事務所でAさんが亡くなられたこと、そして娘さんの事情を説明し、会社から香典として200万円ちょっとを出す、という決議を取りました。
誰一人として反対する者がいなかったのは、本当に嬉しかったです。しかし、会社のプールからこれを出してしまうと、従業員の家族のこともありますので危険です。
銀行やノンバンクからお金を借りて都合しようと思ったのですが、これもなんとなく無借金経営を貫けとおっしゃっていたAさんに対して申し訳が立たないような気がして考えていたところ従業員の一人が「ファクタリングを使いましょう」と声をあげてくれました。
ファクタリングというのは売掛債権を売却して、本来の入金期日よりも前に現金を手に入れることができる方法です。
10~30%程度の手数料が取られるので、本来入ってくる金額よりは目減りするのですが・・・それでも1ヶ月後の入金となっている請求債権をいくつかかき集めると、300万円くらいの売掛債権を作ることができました。
翌日、心配する従業員をほとんど現場に送り出し、役員クラスの人間と私は事務所に残りました。ファクタリングの対応をするためとAさんの娘さんを迎え入れるためです。男ばかりで怖がらせても良くないので、私と役員の人間それぞれの奥さんも事情を説明の上、呼んで来ました。
果たしてファクタリングでの債権売却にどのくらいの時間がかかるか全然見当もつきませんでしたが「最短即日」くらいの勢いでファクタリングの宣伝をしている一括査定サイトに申し込みをしてみました。
もちろん、最初からすべてを信頼していたわけではなく「最短即日融資」とかいう消費者金融の広告と同じく、だいたい2~3日以上は待たされるのではないかと思っていたのですが・・・申し込みをして一時間半くらいで連絡をもらうことができました。
最初は申し込み不備の電話か、あるいは道に迷ったAさんの娘さんからの電話だと思ったのですが、フタを開けてみればファクタリング業者からの電話の嵐。
その日の午前中だけで、合計7社くらいから連絡があったのではないでしょうか。
どの会社も概ね8割以上で買い取ってくれるという、とんでもなく好条件な連絡をくれており、この時点でよくある借金のような審査落ちの心配は全くありませんでした。スロットで言うと、ボーナスが確定していて後はREGかBIGか、くらいなものでした。
最終的に、とある会社さんから90%で買い取りをしてくれると連絡をいただき、さらにその日のうちに入金も可能だと最終的な判断を頂いたので、こちらの会社さんと契約しました。
入金も非常にスピーディーで、その日の13時頃にはもう着金していました。Aさんの娘さんが会社に到着する前に資金繰りが整い、私はAさんの娘さんに対しても良い格好することができましたし、Aさんへの義理も果たすことができました。
このように、ビジネスは数字だけの世界ではなく義理人情が絡むこともあります。特に建設業という業界の場合、育ててくれた方への恩義などもあったりして、なかなか数字だけでは思うように動いていかないこともあります。
そんな時、私はファクタリングという方法で大事な「軸」を失わずに済んだと思っています。つたない体験談ですが、お読みいただきありがとうございました。