創業時や新規事業の立ち上げ、店舗の拡大などのタイミングで必要になるのが「設備資金」と「運転資金」ですが、創業時などは特にこの二つを自力で用意できる人はそう多くありませんから、融資などに頼ることになるでしょう。
あらかじめこの二つの資金の違いを知っておくことは融資他、資金調達をスムーズに進めるのにきっと役立つはずです。
この記事では、借り入れ前に知っておきたい「設備資金」と「運転資金」の意味やそれぞれの違い、借り入れを考えるときのポイントをわかりやすくご説明していきます。
設備資金とは? 目的と利用シーン
設備資金とはどのようなもののことを指すのでしょうか?
運転資金も設備資金も事業を運営するために必要なお金であることに変わりはないのですが、設備資金はひとことで言えば、「設備投資のための資金」です。
設備投資のために発生する一時的な資金
設備資金というのは、つまり事業に必要な設備を整えるための一時的な資金です。
例えば工場であれば新しい商品の生産ラインを導入するための機械設備や、供給を拡大するための工場建設などが挙げられますね。
小売業であれば、改装や新店舗の開設、什器の購入費などが該当するでしょう。
設備に投資することで生産能力を向上させたり、より効率良く運営することが可能になります。
ただ、恒常的な運転資金とちがい、必要なタイミングは不定期かつ短期間ではありますが、設備投資は多額の資金を必要とすることが多く、投資回収までは長い時間がかかります。
銀行の融資などでも返済期間は長めに設定され、ゆっくりと回収していく形になっているため、金融機関側も慎重に審査をする傾向にあります。
こんな用途なら設備資金
以下は、設備資金で賄う支出の例です。
飲食業
・店舗の工事費
・看板や外装の設置費
・厨房設備費(コンロ、オーブン、冷蔵庫など)
・調理器具費(ミキサー、フードプロセッサーなど)
・食器やカトラリーの購入費
・カウンターやテーブル、椅子の購入費
・バーエリアの設置費
・POSシステムの導入費
・排気システムの導入費
IT
・オフィスの内装工事費
・プロジェクターや会議システムの導入費
・サーバーやデータセンターの設置費
・バックアップシステムの導入費
・デスクトップパソコンやノートパソコンの購入費
・高速インターネット回線の導入費
・ネットワーク機器(ルーター、スイッチなど)の導入費
・ソフトウェアのライセンス購入費(買い切り)
・セキュリティシステムの導入費
医療
・診療所や病院の建設や改修費
・診察用のベッドや椅子の購入費
・手術室の設備(手術台、照明など)導入費
・医療用家具や収納システムの購入費
・医療用モニターや機器の購入費
・MRIやCTスキャナーの導入費
・超音波検査装置の導入費
・検査機器の購入費
・電子カルテシステムの導入費
運送業
・倉庫の建設や改修費
・事務所の工事費
・配送センターの設備費
・フォークリフトの購入費
・トラックやバンの購入費
・冷凍・冷蔵トラックの購入費
・トラック用のGPSシステムの導入費
・自動車整備機器の購入費
・荷物の積み下ろし用リフトの設置費
・ドライバー用の休憩施設の設置費
・物流管理システムの導入費
建設業
・倉庫の建設や改修費
・事務所の工事費
・重機の購入費
・運搬用車両(トラックなど)の購入費
・工事現場用の仮設事務所の設置費
・建設用の足場の購入費
・発電機の購入費
・建設用工具(ドリル、ハンマーなど)の購入費
・安全設備(ヘルメット、作業服、安全ベルトなど)の購入費
・測量機器の購入費
運転資金とは? 事業運営を支える資金の種類
では一方、運転資金とは?
こちらは、設備資金のように一時的ではなく、恒常的に必要となる資金のことです。
最もわかりやすいものとしては人件費がそうでしょう。
事業を運営するための継続的な資金
運転資金とは、企業が日々の事業運営を継続するために必要な資金のことを指します。
先に挙げた人件費の他、材料の仕入れ費用や光熱費、賃貸料、通信費など、事業の毎日の運営に直接関わる経費に充てられるのが運転資金というわけです。
運転資金が十分に確保されていれば、企業は安定して商品やサービスを提供し続けることができますが、不足すると日常業務に支障をきたしてしまいます。
商取引は基本的に後払いですから、売上が上がる季節や時期と、支払いが多くなる時期は必ずしも一致せず、このギャップを埋めるために資金繰りが必要になるタイミングもあります。
そのようなケースでは運転資金の借り入れも行うこともあり、こちらは返済期間を短めに設定されている分設備資金よりは審査がおりやすいという特徴も持っています。
こんな用途なら運営資金
以下は、設備資金で賄う支出の例です
飲食業
・従業員の給与
・食材の仕入れ費
・光熱費(電気、ガス、水道)
・家賃やリース料
・宣伝広告費
・清掃用品や消耗品の購入費
・POSシステムの保守費
・各種設備の修理・メンテナンス費
・連絡・通信費
IT
・従業員の給与
・サーバーの運用費
・ソフトウェアのライセンス料(サブスクリプション)
・オフィスの賃貸料
・光熱費(電気、ガス、水道)
・宣伝広告費
・ネットワーク機器の保守費
・クラウドサービスの利用料
・セキュリティシステムの維持費
・連絡・通信費
医療
・医師や看護師の給与
・医療材料や薬品の購入費
・光熱費(電気、ガス、水道)
・診療所や病院の賃貸料
・宣伝広告費
・医療機器の保守・メンテナンス費
・清掃用品や消耗品の購入費
・修理・メンテナンス費
・連絡・通信費
運送業
・従業員の給与
・燃料費
・車両のメンテナンス費
・倉庫の賃貸料
・保険料(車両や荷物)
・宣伝広告費
・運送用具やパレットの購入費
・道路通行料や高速料金
・GPSシステムの保守費
・連絡・通信費
建設業
・従業員の給与
・建設材料の購入費
・重機や機材の燃料費
・建設現場の賃貸料やリース料
・保険料(作業員や設備)
・宣伝広告費
・現場の安全設備や消耗品の購入費
・修理・メンテナンス費用
・許可申請や規制対応費用
・連絡・通信費
借り入れ時の設備資金と運転資金の違い
設備資金と運転資金の主な違いは、上にあげた資金の用途と返済期間にあります。
設備資金は、機械や建物などの大規模な設備投資に使われ、一度に大きな額が必要で、長期的な返済期間が設定されます。
これに対して運転資金は日々の事業運営に必要な費用(給与、仕入れ、光熱費など)を賄うために使われ、短いスパンでの返済期間が一般的です。
ここではその違いをもう少し詳しく見ていきましょう。
返済期間の違い
設備資金は、大掛かりな設備投資に使われることが多いため、返済で事業を圧迫しないよう、返済期間はかなり長めに設定されます。
一方運転資金は、日常の事業運営に必要となる資金ですから、返済期間は比較的短期に設定されます。
この期間は金融機関によって違いますが一例をあげると、日本政策金融公庫の一般貸付と新規開業資金の返済期間は下記のとおりです。
一般貸付
設備資金:10~20年以内
運転資金:~5年以内
新規開業資金
設備資金:~20年以内
運転資金:~10年以内
出典元:
日本政策金融公庫 一般貸付
日本政策金融公庫 新規開業資金
審査の通りやすさの違い
設備資金の借り入れには、厳格な審査が行われます。
これは投資額が大きく、返済期間が長期にわたるため、金融機関側もリスクを慎重に評価する必要があるからです。導入する設備の必要性や効果を理解してもらい、詳細な事業計画書、過去の財務諸表などを提出して投資の正当性や返済能力を証明する必要があります。
対照的に、運転資金の審査は比較的通りやすいと言えるでしょう。日常的な事業運営のための資金ですから高額になりにくく、返済期間も短期であるため、金融機関側のリスクも低いのです。
事前に揃えておきたい書類
資金を融資で調達する際、事前に揃えておきたい書類はこちら。
・該当設備の見積書(設備資金の場合)
・設備投資計画書
・事業計画書 または 創業計画書
・資金繰り表
・試算表
・返済予定表
・直近の決算書(3期分あると○)
この他、初めて融資を受ける金融機関の場合は、会社説明資料などを持ち込んで事業概要を理解してもらうとよりスムーズに審査が進むでしょう。
借り入れ時の注意点
借り入れの際は以下の点に注意しましょう。
事業に関係のない費用を含めない
例えば、個人事業主や小規模事業者によくあることですが、自宅と店舗が一体型になっているケースで自宅側の費用を資金の用途に加えることはできません。
また、株式会社など法人を設立するための資本金、増資のための出資金も対象にならないと覚えておきましょう。
出典元:
日本政策金融公庫 よくあるご質問 事業を営む方 個人・小規模企業の方
借入後に用途変更をしない
設備資金として借り入れたお金を運転資金に使うなど、借入後に用途を変更することは絶対にやってはいけません。
金融機関側は契約時に提出された使途に基づいて金利や返済期間などを決めて審査をします。一度承認された融資の条件は原則変更ができないと思ってください。
用途を変えたり、契約時に虚偽の申請をすれば審査の意味がなくなり、利子も含めて即時返済を求められるでしょう。
また、金融機関からの信用も大きく損なわれ、以降別の金融機関からの融資にも悪影響を与えかねません。
まとめ
いかがでしたか?
設備資金と運転資金の違い、おわかりいただけたでしょうか?
設備資金は金額が大きい分審査は厳しいですが、返済期間は猶予をもって設定できますね。
運転資金は、事業の継続に直接関わる資金であり、短期間での返済を求められる代わりに審査は比較的簡単です。
似ているようで実際はだいぶ違うこの二つの資金の特徴と用途を理解し、適切に利用することはきっと安定した資金繰りに繋がるはずです。