資金調達手段として息の長い手形割引と、近年注目されるようになったファクタリング。
売掛金を現金化できるという点でとてもよく似ているこの2つの方法の違いはどこにあるのでしょうか?
この記事では、それぞれの特長や違いについて詳しく解説していきたいと思います。
手形割引とファクタリングの基本的な仕組みの違い
それぞれの違いを知るためにはまず、基本的な仕組みを理解する必要があります。
手形割引とファクタリング、それぞれの仕組みを詳しく見ていきましょう。
手形割引とは?
手形割引とは、企業が持っている“手形”を支払期日よりも前に資金化するための方法です。
手形を銀行などの金融機関や手形割引専門業者に売却し、割引料を差し引かれた金額を、期日よりも早く受け取ることができます。
手形とは、そこに記載された額面を設定した期日に支払う約束をした売掛債権のことです。
日本では長い間、企業間で商品の代金を支払う際に現金の代わりに用いられてきました。
ファクタリングとは?
ファクタリングは、企業が持っている“売掛金”を支払期日よりも前に資金化するための方法です。
売掛金をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引かれた金額を期日よりも早く受け取ることができます。
売掛金とは、売掛債権に記載された額面のことです。
手形割引とファクタリングで用いられる売掛債権とは、商品やサービスを販売した側がその代金を受け取る権利のことです。
契約から納品完了までに日数のかかるサービスなどでは、購入した側にこの債権を支払う義務が生じ、支払が完了するまでの間、契約上の債務者となります。
仕組みはどう違う?
どちらも売掛債権を売却することに変わりはありませんが、手形割引とファクタリングでは現金化する対象が異なります。
手形割引は文字通り“手形”という、支払の約束がされた現物の有価証券を売却しますが、ファクタリングは“売掛金”という、売掛債権に記載された金額、帳簿上の額面を売却します。
それぞれの流れを見てみましょう。
手形割引の流れ
1:A社がB社へ100万円の商品を販売し、代金を請求します
2:B社は商品の代金として、現金の代わりに手形を振出し、A社に渡します
3:A社が銀行や手形割引専門業者に手形割引を申し込み、審査の後、手形を売却します
4:銀行や手形割引専門業者は、手形の金額100万円から支払期日までの金利、手数料などの“割引料”を差し引いた金額をA社に支払います
5:支払期日、B社は手形の保有者である銀行や手形割引業者に100万円を支払います
ファクタリングの流れ※2社間ファクタリング
1:A社がB社へ100万円の商品を販売し、代金を請求する請求書を発行します
2:A社がファクタリング会社にファクタリングを申し込み、審査の後、売掛債権を売却します
3:ファクタリング会社は、売掛債権の金額100万円から“手数料”を差し引いた金額をA社に支払います
4:支払期日、B社がA社に100万円を支払います
5:A社はファクタリング会社に100万円を支払います
ファクタリングの流れ※3社間ファクタリング
1:A社がB社へ100万円の商品を販売し、代金を請求する請求書を発行します
2:A社がファクタリング会社にファクタリングを申し込み、審査の後、売掛債権を売却します
3:ファクタリング会社は、売掛債権の金額100万円から“手数料”を差し引いた金額をA社に支払います
4:支払期日、B社はファクタリング会社に100万円を支払います
2社間ファクタリングでは、支払期日には売掛債権はファクタリング会社の保有になっているのですが、商品を購入した側であるB社がファクタリングの利用を知らないため、売掛金がA社に支払われます。
A社がこれを持ち逃げしてしまうと、売掛金の二重取りになり、ファクタリング会社は大損をしてしまうというリスクがあります。
メリットとデメリットの比較
では次に、手形割引とファクタリング、それぞれの利用者側のメリットとデメリットを比較してみましょう。
手形割引のメリット・ファクタリングのメリット
手形割引のメリット
・早期に現金化できる
手形割引専門業者の手形割引はファクタリングと遜色ないスピードで現金化が可能です。
・審査が通りやすい
手形割引は融資の中ではかなり審査が通りやすい方です。
・割引料が安い
手形割引の割引料の一般的な相場は以下のとおりです。
銀行:1.5~3.5%
信用金庫:2~4.5%
手形割引専門業者:2.5~20%
手形割引専門業者の割引料はかなりばらつきがありますが、銀行であれば事業融資などと比べてかなり安く済みます。
ファクタリングのメリット
・早期に現金化できる
・審査が通りやすい
ファクタリングの審査対象は売掛先になるため、利用者の経営状況などは審査に影響しません。スタートアップ企業や、個人事業主でも審査を通れるのはこのためです。
・3社間ファクタリングであれば手数料が安い
3社間ファクタリングでは売掛金の回収リスクが低いため、手数料相場は1~9%と全ての資金調達手段を並べて比較しても相当安い方です。
・売掛金の回収リスクを負う必要がない
ファクタリングで売却した売掛債権は、以降ファクタリング会社が回収リスクを負うことになります。万が一、売却後に売掛先が倒産するなどした場合でも、利用者が代わりに支払う必要はありません。
・貸借対照表(バランスシート)を整えられる
ファクタリングは貸借対照表(バランスシート)に負債として記録されません。
むしろ流動資産の売却にあたるため、すっきりと整理されたバランスシートは以降の融資審査での印象を良くしてくれます。
手形割引のデメリット・ファクタリングのデメリット
では、次は両者のデメリットを見ていきましょう。
手形割引のデメリット
・入手できる金額が、割引料分減額される
割引料が安いことはメリットですが、そもそも支払期日まで待てば満額手に入るわけですから、減額されること自体デメリットではあります。
・不渡り時の弁済リスク
支払期日に手形が回収できなくなる状態を不渡りといいます。
手形割引には償還請求権があり、不渡りになった手形は利用者が利息分をプラスして買い戻さなくてはいけません。
ファクタリングのデメリット
・入手できる金額が、手数料分減額される
ファクタリングも早期に現金化できる代わりに手数料分が差し引かれます。
3社間ファクタリングであれば手数料は安いとはいえ、満額手に入らないという意味では同様にデメリットです。
・2社間ファクタリングの手数料は割高
加えて2社間ファクタリングの場合は手数料が跳ね上がります。
仕組みで説明したように2社間ファクタリングではファクタリング会社の回収リスクが高くなるためです。
ファクタリング手数料の相場は、3社間ファクタリングで1~9%、2社間ファクタリングでは8~20%となっています。
申し込みから資金確保までにかかる時間
どちらのメリットでも早期に現金化できることがあげられましたが、申し込みから資金確保まで実際にどの程度時間がかかるのでしょうか?
また、どのような点が審査されるのか、通りやすいのはどのようなケースかなどをそれぞれ見ていきましょう。
審査にかかる時間
手形割引で現金化までにかかる日数は、銀行なら1週間程度、手形割引専門業者であれば即日の入金も可能です。割引料が高い分早く現金化できるということです。
ファクタリングの場合は契約する会社によって実に様々ですが、2社間ファクタリングは審査から入金までがとにかくスピーディーです。申し込みの時間次第で最短即日どころか1~2時間で入金されるケースもあり、スピード勝負の資金調達では他の追随を許しません。
3社間ファクタリングは手数料が安い分、少し時間がかかります。それでも1週間程度で、こちらは銀行の手形割引と良い勝負です。
審査対象と通りやすさ
手形割引の審査
手形割引の審査では、利用者と手形振出し人の双方が審査対象となります。
基本的には手形を振り出した取引先が大手の企業や業績が安定している会社であればスムーズに契約に進めるでしょう。
ただし、手形が不渡りになるリスクを考慮し、手形割引を申し込んだ本人も多少は審査されます。いざとなったら不渡り手形の買い戻しをしてもらわなければならないからです。
ファクタリングの審査
ファクタリングでは、売掛債権を支払う売掛先企業が審査対象となります。
売掛先が大手の企業や業績の安定している企業であれば、売掛債権も信頼性の高いものと判断され、入金までの時間が短縮されたり手数料がやすくなったりもします。
2社間ファクタリングの場合は利用者もある程度審査されます。
支払い能力などを見るというよりも支払期日以後の持ち逃げなどを防ぐ目的であり、見られるのは利用者のモラルであると思っておくとよいでしょう。
事前に準備しておくとよいもの
手形割引とファクタリング、どちらも事前にある程度書類を揃えておくことで現金化までがスムーズになります。
特に求められることが多いのは、以下の書類です。
・本人確認書類
・印鑑証明書
・決算報告書または確定申告書
・通帳(取引先からの入金確認ができるもの)
・取引基本契約書
・売掛債権を証明できるもの(請求書等)
・登記簿謄本(法人の場合)
まとめ
総合的には、手形割引とファクタリングはとてもよく似ています。
今日明日にでも資金が必要ならファクタリング、銀行と取引があるなら手形割引、などというように必要に応じて、その時最適な方法を選択できるか否かが重要になります。
手形割引は銀行であれば手数料が安いという利点があり、ファクタリングは入金までのスピーディーさが魅力ですが、一方で手形割引には買い戻しのリスクがあり、ファクタリングは手数料が高いというデメリットを持っています。
自社の経営状況や目的に合わせて柔軟に選択をすることでより一層スマートな経営戦略を展開することができるのではないでしょうか。