サプライチェーンファイナンスと、近年注目されるようになったファクタリング。
この2つの方法の違いはどこにあるのでしょうか?
この記事では、それぞれの特長や違いについて詳しく解説していきたいと思います。
サプライチェーンファイナンスとファクタリングの基本的な仕組みの違い
それぞれの違いを知るためにはまず、基本的な仕組みを理解する必要があります。
サプライチェーンファイナンスとファクタリング、それぞれの仕組みを詳しく見ていきましょう。
サプライチェーンファイナンスとは?
そもそも、サプライチェーンとは何でしょうか?
サプライチェーンとは、ある商品がその原材料や部品の調達に始まって生産・店舗への移動・販売に至るまでの一連の流れを供給(サプライ)の鎖(チェーン)に見立てた言葉なのです。
サプライチェーンファイナンスはこの一連の流れに金融機関が介在することで、立替や前払いを積極的に取り入れ、サプライチェーンにかかわる企業全体の資金繰りをスムーズにする融資の形です。
これにより、例えば災害で物流がストップしたときなどには、チェーン上の企業が断絶され個別に倒れるといったリスクを最小限に抑えることができるため、震災やコロナ禍を経て、またグローバル化によって諸外国の時勢もサプライチェーンに大きく影響を与える今、ファクタリング同様に推進されている新たな融資形態と言えるでしょう。
サプライチェーンファイナンスの仕組み
通常の取引では、供給者(サプライヤー)=受注者が売掛先(バイヤー)に商品を販売し、その後取り決めた期日に代金が支払われます。
ですが、サプライチェーンファイナンスでは以下のような仕組みで取引が行われます。
1:受注者が売掛先に商品を販売、支払期日を取り決める
2:受注者は金融機関に請求書を提出し、金融機関から売掛債権の額に応じた金額を受け取る
3:売掛先は支払期日に金融機関へ売掛金を支払う
サプライチェーンの中で企業は受注者であり売掛先でもある
サプライチェーンファイナンスの複雑なところは、その流れに組み込まれている企業のほとんどはサプライヤーでありバイヤーでもあるという点です。
例えば牛乳を例に挙げてみましょう。
牛乳のサプライチェーンをざっくりと説明すると以下のようになります。
1:酪農家
↓
2:生乳を工場へ運ぶ運送業者
↓
3:牛乳へ加工する業者
↓
4:牛乳を店舗へ運ぶ運送業者
↓
5:店舗
↓
6:消費者
このうち、2~5に位置する業者は受注者であるとともに売掛先であるとも言えます。
これらの業者が各々で支払いを調整しようとすると売掛債権の扱いが大変複雑になるため、サプライチェーンファイナンスでは必ず、でんさいネットへの加入が必須になっています。
ファクタリングとは?
では、ファクタリングはどのような仕組みになっているのでしょうか?
ファクタリングは、企業が保有する売掛金をファクタリング会社に売却することで、期日よりも前に現金を手に入れる方法です。
おや、こう書くとサプライチェーンファイナンスととても似ていますね。
ある商品の発注を受けた企業が、商品を販売した後、あらかじめ取り決めておいた支払期日よりも前に現金が必要になったとき、ファクタリング会社に一定の割合の手数料を支払うことで早期の現金化を可能にするのがファクタリングの主な仕組みであり、この流れを一本の線で表したときサプライチェーンファイナンスとファクタリングの違いはほとんどありません。
サプライチェーンファイナンスとファクタリングの違い
では何が違うのかというと、まずそれぞれの契約を主導する側に違いがあります。
サプライチェーンファイナンスは、バイヤーが主体となり期日に支払えない場合に備えて金融機関に早期の立替を依頼します。
対して、ファクタリングで主体となるのはサプライチェーンでいうところのサプライヤー、受注側の企業です。受注側が売掛債権をファクタリング会社に売却して早期に現金化を図ります。
そして次に、ファクタリングは受注企業とファクタリング会社の2社間のみでも契約できますが、サプライチェーンファイナンスは必ず、バイヤーである発注元・金融機関・受注企業の3社間での取引となります。
最後は契約の種類の違いです。
ファクタリングは債権譲渡契約であり、売買契約の一環にあたります。
一方、サプライチェーンファイナンスの方は別名リバースファクタリングとも言われていますが、契約の形態としては融資に該当します。
ですので貸金業登録をしている金融機関でないと取り扱えないという特徴があります。
メリットとデメリットの比較
サプライチェーンファイナンスとファクタリングはそれぞれの目的とするものが全く違いますが、その仕組みや効果は大変良く似ていますね。
ではそれぞれのメリットやデメリットはどんな違いがあるのでしょうか?
サプライチェーンファイナンスのメリット・デメリット
メリット
サプライチェーンファイナンスのメリット・デメリットは受注側・発注側両方に存在します。
まず主体となるバイヤー=発注側のメリットは、金融機関が支払の立替をしてくれることによって支払期日の先延ばしができること。
原則支払期日払いではありますが、発注側→金融機関への支払は数日の猶予を貰えるケースもあるためです。
サプライヤー=受注側のメリットは、確実な入金が前倒しで行われることです。
実は受注側にとってのサプライチェーンファイナンスは3社間ファクタリングとほとんど違いがありません。その上で、売掛金から引かれる手数料はより安く、且つ主体が発注側ですから信用問題の心配をする必要もないため、早期現金化はシンプルにメリットと言えるでしょう。
デメリット
サプライチェーンファイナンスのデメリットで受注者・発注者双方に共通するのは利用のためのハードルが高いことでしょう。
取り扱っている金融機関は大手の銀行などに限られ、また、双方の企業がでんさいネットへ加入することが必要要件になります。
でんさいネットに加入するための審査もあり、これを通るためにはどちらの企業にもある程度の信用が必要になるため、利用の敷居はかなり高いと言わざるを得ません。
ファクタリングのメリット・デメリット
メリット
ファクタリングをサプライチェーンファイナンスと比較した場合、最も大きなメリットはその手軽さでしょう。
早期現金化などの結果にはあまり違いがありませんが、債権譲渡とは単純に売買契約ですからそれほど厳しい審査が必要とされません。
ファクタリング会社によって多少の違いはあるものの、前提として銀行や信用金庫との取引があることを求められるでんさいネットの審査に比べればすこぶる簡便であることは疑いようがありません。
ファクタリングにも3社間で契約する3社間ファクタリングという形態がありますから、発注側が乗り気であるなら双方企業の規模によってはファクタリングの方が融通が利くことも多いでしょう。
デメリット
しかし、ファクタリングならではのデメリットももちろん存在します。
審査が簡単であるかわりに、債権の買取に対して求められる手数料の割合が高いのがファクタリングのデメリットです。
ファクタリングはまだ法整備が整っていないため、この手数料の割合もファクタリング会社によってかなり違います。
ざっくりとまとめて8~20%、もしくは1~9%というアバウトさです。
これはファクタリングの契約の仕方によって左右され、受注企業とファクタリング会社間だけで取り交わされる2社間ファクタリングでは前者の8~20%、サプライチェーンファイナンスのように発注元も一緒に契約する3社間ファクタリングでは後者の1~9%まで下がります。
なぜこんなに手数料に幅があるかというと、これがファクタリング会社の負う債権回収リスクに応じて変動するためです。
発注元が関与しない2社間ファクタリングでは、債権を売却した後も期日に売掛金が振り込まれる先は受注側の企業であり、ファクタリング会社はそこから自社が権利を買い取った売掛金が振り込まれるのを信用して待つしかありません。
もちろん受注企業が売掛金をそのまま持ち逃げすれば詐欺や横領になる可能性が極めて高いですから早々そんなことは起きないのですが、やはりファクタリング会社側の回収リスクは比較的高いと言えます。
その点、元から発注元を巻き込んで契約する3社間ファクタリングでは、サプライチェーンファイナンスと同様に発注元から直接ファクタリング会社に売掛金が支払われます。
このため、ファクタリング会社の回収リスクはぐっと軽減され、それが手数料にも反映されるというわけです。
まとめ
サプライチェーンファイナンスとファクタリング、仕組みはとても似ている2つですが、その利用目的の違いから審査の通りやすさという点にはかなり差がありましたね。
もし発注側として利用を検討していて、自社と受注側双方にあまり金融機関との取引があまりないようであれば3社間ファクタリングの方がスムーズに事を進めることができるでしょう。
ただ、サプライチェーンファイナンスはそのほとんどが大手銀行の取り扱いということもあり、発注側・受注側ともにでんさいネット加入のハードルを乗り越えられるなら、双方の企業の信用度を一気に高めるチャンスとも成り得ます。
発注側として複数のサプライヤーに対していくつもの買掛金があるなら、その中で信用度の高いサプライヤーと相談してサプライチェーンファイナンスを検討してみるのも有りでしょう。
ただ、サプライチェーンファイナンスもファクタリング同様に受注側が買取手数料を負担しますから、事前の相談と双方の信頼関係はとても重要です。
バイヤーであると同時にサプライヤーでもあるので売掛債権も豊富である、といった場合は手数料は高いものの即日対応も可能な2社間ファクタリングも選択肢に入るでしょう。
自社の状況に応じて、最適な方法を柔軟に見極めたいですね。